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春吉の歴史を振り返りつつこれからの春吉への想いを新たな目線でお伝えします。

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世の中そんなに苦かぁねぇ!

−末崎光裕−

 先日佐世保から人参が届いた。待ちに待った吉田さん&田中くんが育てたワイルド人参だ。早速生でかじる。シャクッという音がする。これだ! 何とも言えないみずみずしい音。シャクッシャクッと続けると小気味よく小さくなって、山の水の味がして、のどを通るとその後に透明感のある不思議な甘みがふわっと漂ってきて、鼻の穴に抜けていく。この後味だ!

  2007年の秋、あまりのおいしさに腰を抜かしそうになった。当時、書籍「まるごといただきます」(吉田俊道・タカコナカムラ著/西日本新聞社刊)の制作をしていた私は、佐世保の畑でこの人参を食べた。まるで柿。カブは梨、ほうれん草は信じられないかも知れないが、さとうきびと間違うほどだった。えぐみがない野菜は本当にそんな味がする。

  一度吉田さんに「おいしい人参の見分け方ってありますか?」と尋ねたことがある。色、ツヤ、形、切った時の繊維の入り具合、葉の様子…などの答えを想像しながら聞いたのだが、まったく違った。「生でかじることよ。で、いつの間にか『あら!食べてしもうとった!』っていうのが元気でおいしい人参。ゴクンて飲み込んだときに後味が悪いやつはそうは食べられん」。

  嫌いな人が言う“独特の人参の味”はえぐみである場合が多い。元気な土でできた元気な野菜を使って、丈夫な心と体を作ろうと全国に発信している吉田さんの人参は、「苦手だ」という人も目からウロコの澄んだ後味がする。

  5年前に出合った珈琲がある。その後味、後香に僕は一ぺんでやられてしまった。

  深夜に机仕事をしていたその頃は、一晩に4杯、5杯もおかわりして飲んでいた。近所の自家焙煎店で豆を買い、丁寧に蒸らし入れ、珈琲好きを自称していたのだが、「ハニー珈琲」の井崎さんから豆を買うようになって、深夜12時に入れたマグカップ1杯の珈琲で事足りるようになった。一口ゴクンとやれば、柑橘系の珈琲豆はすっきりと、フローラル系はふんわりと、チョコレート系はとろっとした、甘さを含んだ香りが立ち上ってきて、しばらくの間顔の周りに漂っている。口にえぐみが残らない。“珈琲なのに”後味に不思議な透明感。しかも冷めてからがなおおいしい。矢継ぎ早に飲むのが惜しいと思ってしまうのだった。

  さて、ここで、ある疑問がわきませんか? “柑橘”“フローラル”“チョコレート”ってそりゃ味のことだろうけど、珈琲が本当にそんな味するの?ということに。「ハニー珈琲」ではそれぞれの豆にこういった味の指標が書かれている。私も始めは「ンなわけない…」と思ったのだけれど、飲み比べてみるともう、うなずくしかない。中には“レモンジンジャー”と書かれた豆もあるのだが、本当に、飲んでレモンやジンジャーの刺激を感じてしまうから驚いてしまう。

  井崎さんが買い付ける豆は、「モレノ」、「リンダ・ビスタ」、「サン・パブロ」というように栽培された農園や農園主の名前を冠していて、すべて世界各国の農園から直接届けられたもの。一般的によく知られる豆の「モカ」がイエメンの積出港の名前、「キリマンジャロ」がタンザニア産珈琲の中の一つのブランドだということを考えてみよう。すごく小さな名前でしょ。同じ国の珈琲農園であっても農園周辺の気候や土壌、栽培方法はそれぞれ違うだろうし、どれだけ完熟したものを選ぶか、どうやって生豆に仕上げていくかという収穫後の工程もある。これまで大手商社、メーカーなどが大きな名前で流通させていた珈琲が、生産地や品種を混ぜた混血だとすれば、井崎さんが選ぶ豆は純血種。

  ハッとした。珈琲は“珈琲という飲み物”ではなく、そうか、果実に包まれた“植物の種”、農園の環境や農園主の仕事ぶりが個性となって現れる農産物だったのだ、と。

  店に行ってダジャレが聞こえてきたら、それが店主の井崎さんだ。いないことも多い。そんなときはたいてい海外に行っていると思っていい。南米のボリビア、ブラジル、中米のコスタリカ、パナマ、ホンジュラス、時にはアフリカにまで出かけて行く。それは農園主に会いに行くことを主な目的とした旅だ。井崎さんが輸入・販売している豆は広く言うと“スペシャルティコーヒー”と呼ばれるカテゴリーの珈琲豆で、すでに農園・農園主名や加工方法などの情報も明らかにされているのだが、評判を聞いたり、試飲しておいしいとみるや、どういう人間がどういう畑で作っているのか見たくなる。話をしたくて、いてもたってもいられなくなる。そして飛行機に乗ってしまうのであった。

  井崎さん曰く、おいしい珈琲の条件は「冷めた時に後口が爽やかなのかどうか、そして後口が甘さに包まれて終わるかどうか、味に透明感があるかどうか」。そんな珈琲を作っているのは、自分の仕事に誇りを持って生きている農園主だという。

  ここ2、3年、福岡のカフェに“スペシャルティコーヒー”が広まりつつある。大手企業の価値観で作り上げられた“珈琲”が変わりつつある。その裏には、種から一杯の珈琲にいたるまでの豊富な知識と確かな舌を認められ、世界各国から審査員として招待される井崎さんという人がいる。店は清川の目立たない通りにあるプレハブ式。こんな店はたいてい小さいけれど、熱烈なファンが詰めかける。

  みなさんの2009年が、後味爽やかな、苦くない1年になりますように。

ここで飲めます

ハニー珈琲:福岡市中央区清川2-1-21ラシクU

http://www.honeycoffee.com/

manu coffee春吉店:福岡市中央区渡辺通3-11-2ボーダータワー1F

manu coffee舞鶴店:福岡市中央区舞鶴2-3-10

REC RE:Coffee/car(ワゴン店舗):福岡市中央区薬院1丁目城南線ローソン近く※2008年11月の「晴好夜市」に駆けつけ出店してくれました

※その他にもたくさんありますが割愛…

吉田俊道さんの野菜

佐世保市在住の有機農家である吉田さんは、耕作放棄地(担い手がおらずほったらかしにされた田畑)の素晴らしい価値に着目し、無農薬による「元気野菜」を生産している。生ごみを土に戻し、菌や微生物の働きを確認しながら行う野菜作りなど、感動のある体験型食育を推進中。NPO「大地といのちの会」代表。http://www13.ocn.ne.jp/~k.nakao/

元気野菜園

管理人の田中くんのブログはhttp://blog2009.gennki-yasai.com/

“ワイルド人参”の宅配は、だいち村三川内店(電話・FAX0956-30-7120)※キロ単位で注文。1キロ(大なら4本、中なら6本程度)あたり300円です。送料別途(九州内500円、近畿は約700円、関東は約1000円)。

※以下、筆者補足

土地は放置すると雑草が生えるが、実は適当に生えているわけではない。例えばその土地にリン(P)が足りない場合、枯れて土に戻った時にリンを補充してくれる草が生えてくるのだ!リンが補充されれば翌年は○○、その翌年は○○というようにして、5〜6年経つとその土地はミネラルバランスが見事に整ってくる。このような命がめぐり微生物がいっぱいになった元気な土地には肥料を入れる必要もない。虫も寄りつかない。そして後味がよく市販の野菜よりも栄養価の高い元気な野菜ができる。他の人参と同じ日に輪切りにし、1週、2週間と放置してみたらその違いが歴然です。

末崎光裕

出版編集事務所「詠人舎」。主に書籍、雑誌を作ってます。

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