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プロジェクト

晴好夜学〈第13回〉
「グローバリゼーションと福岡」
野田順康さん

 「グローバリゼーション(世界規模化)」と聞くとどうしても難しい言葉のように考えてしまい、頭をかしげる人も多いのではないだろうか。しかし「グローバリゼーション」は私たちが住む福岡と大きな関わりがあるのだ。今回は「ハビタット」のアジア太平洋本部長を務めた野田順康さんにお話を伺った。

講師:野田順康さん
2012年10月24日(金) 会場:春吉公民館

プロフィール/1979年旧国土庁入庁。開発政策、国土計画・地域計画、防災対策を専門とする。
都市化や居住に関する問題に取り組む国連機関「ハビダット」との関わりは長く、1983年から1985年に本部(ナイロビ)の居住専門官、2002年には福岡事務局長、2006年から2012年7月まではアジア太平洋本部長を務めた。

ハビタットとは

 国際連合人間居住計画「ハビタット」。きなれない人も多いこの名称。まずは野田さんがを務めるこの機関について教えていただいた。
 「世界各地では都市化が急速に進行しています。しかし、その一方で発展途上国の都市に暮らす人々の居住問題も深刻化しているのです」ハビタットの使命は自然災害や紛争地域の場所に行き、社会的、環境的に持続可能な都市づくりを促進すること。2005年に起きたパキスタンの大地震の際も現地へ駆けつけ、仮設住宅の作業などに従事していたのだという。
  その機関が九州にただひとつあるのが「福岡」なのだ。
 「日本の中心と聞くと、東京をイメージされる方が多いと思います。でも、アジアの中心地は中国なんです。さらにそこから最も近い福岡は、アジアの玄関口とも言われているほど、中心と密接な関係にあるんですね」確かに福岡から韓国まで、飛行機で一時間もあれば着いてしまう。ともすれば国内旅行に行くよりも短時間で隣の国に行けてしまうのだ。福岡へ観光に訪れる外国人も多く見られるのが、その象徴だろう。

アジアの都市を巡る問題

 野田さんは、分かりやすいように図解説付きで講義を進めてくださった。ハビタットの活動内容、発展途上国の状況などを目の当たりにすると「対岸の火事」の問題として片付けてはいけないのだ、という気になる。
 ここで野田さんの言葉にハッとする。「日本は第二次世界大戦に負けたあと、平和を好むようになりました。もう二度と、同じ過ちは繰り返さないようにしようと、誰もが胸に誓いました。しかし、世界ではどんどん紛争が起きています。ちっとも『平和』ではないのです。本来の平和主義とは何なのか、武力はいるのかいらないのか、アジア全体で世界平和を考えていくことが今後の課題です」
 テレビをつければどこかの国で起きている暴動のシーンや内戦の映像が流れる世の中。それを見て「ああ日本はなんて平和なんだろう」と思った人は、きっと少なくないだろう。
 私たちはどこかで「他の国のことだから」と考えてしまいがちなのだ。続けて見せてくれた、スラム街と富裕層の境目の画像に、誰もが息を呑んだ。
 「今や今や70億人のうち12億人がスラム街に住んでいるような状態なんです。これが今のアジアです」自分たちの今の生活を噛み締めながら、福岡からほど近い地域の現状を突きつけられ、思わずため息をついてしまう。私たちには今、何ができるのか――。

福岡はどう関わっていくか

 「福岡は東京から約2000km先にあり、東京の影響がじゅうぶんに及びません」野田さんは話す。しかし、そこに打ちひしがれてはいけない。だからこそ、独自性のあるものが作れるのだ。野田さん曰く、英雑誌「MONOCLE」の調査「世界で最も住みやすい都市」(2012年調べ)によると、福岡は12位に輝いているのだという。
 「今、福岡をモデルにした住みやすい都市づくりの計画も進んでいっています。福岡はコンパクトでありながら便利で清潔感がある。それに加え、公共交通システムが整備されているので東京のように込み入りません。近代芸術品がさかえる一方で、伝統的な芸術や文化をとても尊重しています。何より、海も山もあり、自然環境が素晴らしい」野田さんの言葉に誰しもが大きく頷いた。そう、福岡に住んでいる人々は、本当に福岡のことを愛している人ばかりなのだ。「そこで『5部会』と呼ばれる方針が作られました」

  1. 【観光】九州経済連合会副会長・石原進氏が中心。
    福岡を集客交流のゲートウェイ(玄関口)にするため、インバウンド、アウトバウンドの活性化に力を入れている。
  2. 【環境】 九州大学のの副学長・安浦寛人氏が移出方の新しい環境産業の創出・集積を計画中。
  3. 【人材】 福岡は東京の次に留学生が多い街。そこで、福岡市総企局長・貞刈厚仁氏が中心となり、多言語に対応できるグローバルな人材を育成しようとしている。
  4. 【都市再生】 同友会幹事・橋田紘一氏が港湾、空港、鉄道のネットワークをさらに生かし、集客に持ち込めないかと思案中。
  5. 【食】 こちらはまだ未定だが、移出産業として福岡の食材を使ったレストランを開いたり、観光とタイアップをしたりなどまだまだ可能性はたくさんある。

と、以上のことを話してくださった。

福岡の未来

 アジアの話から始まり、福岡の未来の話へ。野田さんの講義を改めて振り返ると、福岡はまだまだグローバル化の可能性があるということをしみじみ感じる。
 例えば春吉にある店が海外に進出することもできるのだ。まだまだ夢や希望にあふれる福岡の街。ここに暮らしていることに誇りを持ち、未来を担う一人としてこれからも街を愛し、発展に努めていきたいと思う。

文:株式会社チカラ 内川美彩 写真:比田勝 大直

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