講師:川上 三太郎さん
日時:2014年6月24日(火) 会場:筑前國一之宮 住吉神社 能楽殿
プロフィール/川上弘文(ひろふみ)。1945年広島市生まれ、福岡市育ちの、西日本新聞社の知る人ぞ知る名物記者。1970年に西日本新聞社に入社し、鹿児島、大分、福岡、佐賀 、東京で勤務。定年後も、日曜日版の西日本新聞にてコラムを執筆している。
人も歴史も出来事も。身近に感じることが大事
本題に入る前に、まずご自身のニックネームについて話してくれた三太郎さん。「45年前、西日本新聞社に入社した頃からこう呼ばれとるとです。入社早々、失敗を三回繰り返して、”できそこないの三太郎”なんて言われてた(笑)」。
でも実は、この愛称こそが、三太郎さんと地域とをより深くつないでくれるコミュニケーションツールとして大活躍してきた。初めて会った人にもすぐ名前を覚えてもらうことができ、親しみやすさも感じてもらえたと言う。
「この”身近に”っていうのが、すべてにおいて大切なキーワードだと思うと三太郎さんは説く。例えば、世の中に起こる様々な出来事や、歴史、世界との距離、あらゆる事をいかに自分との関わりを持って考えられるか。
「物事を、身近な親しみやすいイメージに置き換えて記憶すること。理解すること。これは、物忘れの防止にもなるとですよ!」。
なるほど、だから三太郎さんは今も変わらず、こんなにもバイタリティに溢れているのだ。
目標を掲げる
前段の「身近さ」は、実は本題にも言えること。「春吉は福岡の防波堤となれるのかどうか、それは個々人の街との関わり方の意識によるところが大きい。九州や沖縄の各県は、若者の東京への流出により、高齢化社会が進みつつある。福岡こそ多くの魅力的な雇用の場を創出し、東京一極集中の防波堤になることができるのではないだろうか。その中で、春吉はいったい何ができるのか。三太郎さんはそう投げかける。
このテーマは、今注目を集める「ソーシャルデザイン」だと言えるのではないだろうか。ソーシャルデザインとは、どのような社会を築いていくか、を考える計画のこと。
社会的な課題の解決と同時に、新たな価値を創出する画期的な仕組みをつくる……なんて言うと、なんとも大きな事業のことのようで、距離を感じてしまいがちだが、その一歩は、身近な人たちのためにできることをやってみること。課題を「自分ごと」、として捉えて考えてみることだ。
長年地域と関わり、そして春吉のことも「自分ごと」として考えてくれる三太郎さんは、ここでひとつのアイデアを提案した。「春吉は音楽の町、文化の町」でもある。昭和天皇のご成婚祝いに、日本人の手で初演されたベートベンの交響曲第九番「合唱」。
この開催地は福岡だった。そしてその指揮を務めたのが、九州フィルハーモニーの父と言われる、九州帝国大学医学部初代精神科教授・榊 保三郎氏。彼は春吉に住んでおり、大正時代、町の横丁には彼の奏でるバイオリンの音色が流れとったらしい。
だったら、例えば、春吉に音楽大学を創るなんてどうやろう。壮大な未来デザインに、ちょっぴり驚いた様子の参加者たち。
「目標を掲げることから始めんと。20年後の実現でもいい。だって20年前を考えてみたら、今のことなんて分からんかったでしょ。20年後どうなるかなんて分からんけん、イメージをするんです」どんな街になっていたらいいか、どんな未来を作りたいか。まずはイメージすることから始めてみよう。
街づくりの一歩
講座の後は、能楽殿内の座敷に移動しての歓談タイム。実はこの日、ゼミの一環で「春吉プロジェクト」なるものに取り組んでいる、九州大学大学院の学生3名が参加してくれていた。しかも、日本人(沖縄出身)、中国人、韓国人というインターナショナルな顔ぶれだ。
そこで実行委員は、彼女たちにそれぞれの自己紹介と春吉についての見解を優しく(!)強要。3名とも快くスピーチに応じてくれた。実際に町を歩くことからはじめたというみなさん。「路地裏に魅力あり。角打ちや、ホルモン串の小さな店とか、こんなに面白い場所がたくさんあることに気づいた」「春吉の町は夜のイメージがあるけど、昼の時間帯を有効活用できないかと考えています。湯葉を扱っているお店も発見したし、デザートバイキングなんていいかも!」「外国人観光客が訪れたくなるような、町歩きマップなんていうのも作ってみたい」。そんな留学生らしい意見も飛び出し、聞いていた三太郎さんも「前途洋々だね」と思わず笑顔に。彼女たちの話で、外国の人が町を身近に感じてくれたことを知り、同時に我々もほんの少し外国を身近に感じられたような気がする。
また今回の夜学で、ほんの少しでも春吉の未来をイメージしてみた人は多いのではないだろうか。もしかすると、三太郎さんの言う「防波堤づくりは、小さな石積みからもう始まっているのかもしれない。
文:吉野友紀 写真:比田勝 大直
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