第9回目を迎える今回は「NPO法人福岡ビルストック研究会」の理事長であり、「福岡路地市民研究会」の事務局長を務める吉原勝己さんを招いた。春吉校区がもつ魅力こそが福岡の将来を左右すると力説する、その理由とは……。
講師:吉原勝己さん
2011年11月29日 会場:建立寺
プロフィール/「吉原住宅」の社長。清川で生まれ育ち、春吉校区の豊富な地域資源に魅かれて様々な活動に参加している。春吉の地域力向上こそが、福岡の将来を左右すると語る。
春吉の街の魅力に迫る
「私は春吉の南校区にある清川で生まれ育ちました。50歳になる今も、そこで子育てをしています。この区域は、町ごとにカラーが違うところが面白いですね。春吉は春吉、清川は清川でそれぞれに魅力がある。歳をとるにつれ、その面白さに気づきました」
2011年3月にオープンした「JR博多シティ」。九州新幹線が開通し、博多駅が新しくなり、百貨店が入り……と、ニュースが満載のこの場所には多くの観光客が訪れるようになった。ところが、博多に人が集まるばかりで天神のほうまでは足がのびていないのが実情だ。
「福岡市民としては、博多だけでなく福岡の街全体を楽しんでほしいですね」と話す吉原さんは、そのために重要なキーを握っているのが春吉なのではないかと言う。
「春吉は、博多と天神のちょうど中間地点にあるんです。だから、ここが今よりもっとにぎやかになれば自然と街中を巡る人が増えるのではないでしょうか」
「春好夜学」や「春吉夜市」を開催するなど、市内の中でも春吉は町おこしに力を入れている校区だと、私は思っていた。無論、この場にいる多くの方々が同じ考えだろう。これ以上、どんなことを頑張ればよいというのだろうか。
「そこでポイントになるのが、春吉の路地なんですよ」吉原さんがニヤリ、と笑った。
路地に目を向けてみよう
「福岡路地市民研究会」。とてつもなくシュールな香りがただようネーミングだ。
「なんてことない、ただの路地好きが集まっている会です。それぞれが好きな路地について談義したり、学んだり、セミナーを開いたり……」
ここで、吉原さんが1つの写真を出した。
「これは昭和37~38年の頃の清川です。私の実家は、かつて遊郭だった場所を父が買い取り、「いずみ荘」として旅館を経営していました。ブルーコメッツが大広間でコンサートをしたこともあります。幼かった頃の私は、隙間からのぞき見るのがやっとでしたけどね(笑)。でも、遊郭だったこともあり、綺麗な女の人は毎日のように見ていましたよ」 東に西日本最大の歓楽街・中洲が広がる春吉校区の南側には、かつて遊郭があったのだ。知らなかった。しかし、当時の面影を知るための資料は、ほとんど残っていない。
「遊郭だった歴史は道徳上「良し」とされるものではありません。聞くところによると、その記憶は残しておくべきものではないと、資料が消去されていくのだそうです。こうして、当時のことを語れる人がいなくなり、歴史が風化していきます」
吉原さんが、悔しそうに言葉を噛み締めた。
「街を大切にしていく中で、歴史は重要なものなんですよ。昔があるから、今がある。そしてそれらは次の世代が街づくりをするときに必ず大きなエネルギーになります。ヨーロッパの街並みは、古い建物も重要として人々から愛されている。福岡も、そんな街になれば、きっと今より魅力的になると私は考えています」
そんな吉原さんが思う、路地の良さとは。「路地には面白い文章がたくさん転がっています。例えば、犬や猫にも理解できるように”ここで迷惑行為をしたらいけません”ということを犬語、猫語で書いてある。こんなシュールなもの、表の通りでは見られないですよね(笑)。そして、ランドマークもたくさんあります。私のお気に入りは『はるよしクリニック』と隣のビルの角の部分。ここを”清川スカイツリー”と命名して、イルミネーションを点灯させたら観光客が増えるんじゃないでしょうか。路地には、可能性が無限大なんですよ」
春吉から福岡を元気に!
「大名地区から天神、春吉校区から天神。この2つは、距離にすると大体同じくらいなんです。ところが決定的に違うところがあります。それは、土地の値段です。大名のほうが高いのです。これは単純に大名にあらゆる店が集まっているからでしょう。でも、これからはお金をかけて街を盛り上げる時代ではなくなると思います。経済的な評価よりも、社会的評価が重要になるのです。だから、街をより活性化させるには”昔からあるものを大切にすること”と”土地の評価をあげること”この2つに尽きると思います」
最後に一つ、吉原さんが興味深い統計を教えてくれた。福岡大学の石橋教授が、情報誌やマップから福岡の街を分析したものだ。ここから、どんなスポットが人気なのかが分かるようになっている。
「データによると、みんなが興味をもっているものは「歴史」32%、「食」24%、「芸術」21%という数字が出ています。つまり街のブランドを作る際には、この3つを押さえておけばほぼ間違いないということなのです」そのいい例が、東京の隅田だ。「隅田は路地を生かした街づくりに成功しています。新しい建物が開発されている地域ももちろんありますが、路地を街中の”大切なもの”として残しているんです。そして毎年『路地園芸コンテスト』を開いている。こうすることで、みんなが路地の緑を、街並みを、美しく保つ努力を自然とするようになるのです」
昔からあるものを大切にしながら、ニュートラルな発想も取り入れること。新しいものだけに目を向けているばかりでは、本来の魅力を失ってしまう。
老舗の酒蔵や飲食店が建ち並ぶ中で、続々と新顔が登場している春吉。町の勉強会や夜市に参加するたびに、地域の強い繋がりを感じる春吉。ここなら、きっと、更に元気な街へと発展していくはずだ。吉原さんの言葉には、そう思わせる不思議な力があった。
文:株式会社チカラ 内川美彩 写真:Kenzy Tomozoe
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